見沢地廉の『調律の帝国』を古本でゲット。『天皇ごっこ』、『囚人狂時代』の小説とともに筆者の12年間に渡る監獄時代を基にした小説。左翼から右翼へ転向後、イギリス大使館焼き討ち事件、スパイ静粛事件の後出頭、逮捕。その収監中に執筆を初め、厳しい監視の中、小説を書き続いていた背景、経過が本著作の中で主人公に語らしている。監獄という超監視システムの中、精神の均衡をとる為に小説という手段をとるが、それも最後には剥奪され、システムの中に回収されていく様、それこそが思惟することの拠り所をすべて他者あるいは帰属する社会に委ねることが安寧の道なのだいう示唆されている。何も監獄に限らず、大方の社会共同体に帰属する我々にも良く似た事例がある。
もう、紙袋だけだった。今度こそ、Sの中の人間は完全に死ぬことに成功した。これで悩むことも、考えることも、愛することも、呪いの悪夢に魘されることもなくなるだろう(178頁)。